2013年4月24日水曜日

Vol.10 桃おじさんとウェブマーケティング


ウェブマーケティングの勉強をちょっとだけしています。ちょっとね。

そうするとCPA(Cost Per Acquisition/利益に繋がる成果を獲得するのにかかる費用)だ

サイトの直帰率だインプレッションだなんだと、むずかしい言葉が出てきて脳が死ぬ。

ウェブに限らず、マーケティング用語に出会うとだいたいいつも脳が死ぬ。

何故脳が死ぬかと言うと、英語の頭文字をとっただけの用語と難解な解説だけでは

リアリティのあるシンプルで身近なやりとりにイメージが転換できないから。

そのたびに私は桃おじさんのことを思い出します。





あれは去年の夏じゃった。

桃おじさんは軽トラにたくさんの桃を載せてやってきました。

我が家の最寄りの駅のそばにやってきました。

桃おじさんは歯がないので口がくしゃくしゃです。

競りの人が被るような帽子をかぶり、農作業でくたったような服を着て軽トラの前に立ち、

良く陽に焼けたゴツゴツの手で忙しそうに桃を出したりしまったりしていました。

無農薬でリンゴを作った人みたいな風貌をイメージしてください。

…そう、それが桃おじさんです。



さて、この桃おじさん。

駅前にいくと、毎日同じ時間、同じ場所に軽トラを停車している。

駅の真ん前ではなく、駅から100mぐらい離れた見通しの良い曲がり角。

時間は夕方から夜。

そして裸電球で煌々と照らされた軽トラの荷台には、

まるまると大きくピンクに色づいた美味しそうな桃が山積みに。

荷台の幌には、遠くから見てもすぐわかる黄色い紙に

大きな赤い文字で「7個300円」と手書きのPOP。

そのPOPにはちゃんと産地も書いてある。



まずびっくりする。

7個300円は安い。

遠目で見る限り、桃は赤子の尻のようなみずみずしさを湛えている。

あの桃が? 本当に? 私は興味を抑えきれなくなり、

軽トラを見かけて3日目あたりで桃おじさんに近寄っていきました。



私がそっと近づいていくと、桃おじさんはにっこり笑って、

まず、なにも言わずに目の前で桃を切って一切れ差し出してきました。

私は「ありがとう」と言って桃を口に入れます。あまい。

すっと皮がむけてツルンと口に入ってきた桃は甘くみずみずしく

そして口当たりはなめらかで適度にやわらかく、

ああこれは産地直送の桃だな~ と思わせるようなそんな味。

これが7個300円だったら文句なし。私は自分の財布に手をかけました。



さて、ここからがスゴイ。



「いま食べてもらった桃は、中の桃。」



おじさんはくしゃくしゃの笑顔でそう言って、右から2番目の籠を指します。

荷台を良く見ると、桃は4つの籠に分けて入れられていました。



「桃は4種類あって、小、中、大、特大。あそこに書いてある(手書きPOPのこと)

7個300円はこちらの桃」

そう言って一番右の、スーパーではちょっと流通しづらい小ぶりのくすんだ桃を指します。

あーなるほど。7個300円の小桃は言葉で客寄せするための商品か。なーんだ。



しかし桃おじさんは私のとまどいを気にも留めず、

小、中、大、特大の桃が入ったそれぞれの籠から

桃の値段が書かれた名刺サイズのカードをトランプのように出して続けます。



「中の桃は8個で1,000円。

大の桃は4個で1,000円。

特大の桃は3個で1,100円。」


なに… 桃おじの説明を聞かないと客は視覚的にすぐ値段が分からないこのシステム。

なに… そのトランプマン並の手さばき!



私が茫然としていると、トランプ桃おじはこう続けました。

「…でもお客さんにはサービスで、今日だけ中の桃は10個で1,000円。

大の桃は6個で1,000円、特大の桃は5個で1,000円にしてあげる!」


そしてやっぱり出た…本日限りの特別オーファーーーーー(゚∀゚)!



これ、昔からよくある方法ですけれども、良く考えると

ウェブのセールスマーケティングって結局これじゃんよと思うのですよ。

1.毎日同じ時間、同じ場所に停車する軽トラ。

 ⇒追っかけてくるバナー広告


2.遠くから見てすぐわかる「7個300円」の手書きPOP

 ⇒刺激的なコピーでフロントエンド(購入ハードルの低いお試し商品)を宣伝


3.近寄っていくとまず桃を一切れ差し出され試食。(この時点で私はもう見込み客)

 ⇒バナーをクリックするとランディングページが出てきて無料オファーが提示


4.興味を持って近寄ると無料オファー、しかしそこにはランク違いで4種の桃が…

 ⇒好印象が持てる無料オファーを試すと魅力的なバックエンド商品ドーン!
   しかも本日限りの特別プライス(ワンタイムオファー)m9( ゚Д゚) ドーン!


特に桃おじシステムは「7個300円?ありえない!」とコピーに釣られて寄っていくと、

無料で食べさせるのがそのひとつ上のランクの桃というのが秀逸。

その桃が美味しかったから、私はそれより下のランクの桃を買う気が失せた。

eコマースでは小額のトライアルや無料資料請求を

集客のためのフロントエンド商品やファーストオファーとして提示するけれど、

実際にその言葉(ハードルの低い金額)に寄せられて来た人に、

無言且つ無料且つ無断で、そのワンランク上の商品を享受させて

バックエンド(売り手の利益になる本商品)へのハードルを下げるなんて

考えたこともありませんでしたよ。



・フロントエンド商品の7個300円のバナーで集客

・フリーサンプルとしてフロントエンドよりワンランク上の美味な桃を一切れ無償提供

・興味を持った見込み客にバックエンド商品を「今だけ◎個無料サービス」ですかさず提案

・しかも『本日限りのオファー』はすべて1,000円なので比較簡単


セットプライスが1,000円なのは客にとって比較しやすいだけでなく、

桃おじにとっても客単価が高く、

お釣り用小銭の用意も少なくて良い価格設定だと思います。

私はひとり暮らしなので10個(中の桃)はいらない。

大の桃はさきほど試食した中の桃より美味しいはず…

ちなみに1個いくら?と聞いたらば、かなり割高でした。



こうして桃おじの作戦に嵌り見事なカモとなった私は、

結局6個で1,000円の大の桃を購入しました。

たった300円使うつもりが、3倍以上の1,000円の出費!

凄く勉強になったので、最後に桃おじさんに「おじさん商売うまいね!」と

声をかけました。おじさんはポカーンとしていた。

脚本は誰か別の人が書いているのかもしれないね。



しっかしクロージング(購入)までの桃おじさんの動線は

今思い出しても本当に鮮やかでした。

だって無料で試食した桃がどんなに美味しくても、

選択肢が「いま食べた桃が10個で1000円!」のひとつだけだったら

絶対に買わなかったと思います。

逆に、私が3人の子持ちの母親だったら、10個1000円に興味を持ったかもしれません。



こうやって比較しやすい選択肢をいくつか用意し、

これより上ならもっといいはず…という欲も上手に見透かして、

お客様それぞれのライフスタイルに合わせた商品を提示しやがった桃おじさん。

ウェブマーケティングセミナーに何万も出したり、

Amazonで売れ筋マーケティング本を何冊も買ったりしてるけど

ぜんぜん商売がうまくいかない人が大量にいるのに、

歯がないままそれをやってのけた桃おじさん。ああ憧れの桃おじさん。

『誰でもできる!取りこぼしを極力減らすたったひとつの極秘クロージング方法!』

っていうセミナーか情報商材を売ったほうが儲かるかもしれないよ桃おじさん。



よくよく考えてみると、この桃おじセールスがウェブマーケティングに似てるのではなく、

桃おじセールスを対面ではなくとも実行できるようにした仕組みが

ウェブマーケなんですよね。なんか発想が逆になってた。

ここ5年で出てきた画期的なマーケティング方法だと勘違いしてた。

ばかね。



この話を友達にしたところ「あ、あれ詐欺だよね。軽トラのやつ」だって。

そう取る人も多かろう。でも桃はとても美味しかったんでまぁいいや。

私は今年も桃おじさんに会いたいです。




【追記】

そうそう、桃おじが農家の人かどうかはわからないし、

書いてあった産地も嘘かもしれない。

でも私はいろいろ勉強になったし、桃はあまくて美味しかったな。

9 件のコメント:

  1. 一箇所「3個700円」って間違えてますぅ・・・

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  2. おじさんの出で立ちから既に始まっていたのかもと思うと。本当におもしろい。

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  3. 桃おじさんもすごいし桃おじさんのすごさを見抜くスーさんの目線もすごい!

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  4. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  5. な〜るほどね。(・∀・)大手スーパーよりも、お買い得ってことなのかな?

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  6. おおお、ものすごくわかりやすかったです!
    スーさんの見抜く眼力と、解説の的確さ…
    惚れてまうやろ!

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  7. うちの近くではみかんおじさんです。でもここまで上手くなくて、ちゃんと値札出てますが。

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